こんにちは!
今回の作品は太宰治の『リイズ』という作品です。
理想と現実の狭間で葛藤する若き画家の姿が描かれています。
耳から楽しみたい方は、以下YouTubeからどうぞ♪
あらすじ
この作品は、洋画家の杉野君とその周囲の人々を描いた短編小説です。
あらすじ:
杉野君は、職業画家ではなく、良い絵を描くことに日夜努力している青年です。彼は展覧会に入選したこともなく、絵を売ったこともありませんが、それを気にせずひたすら良い絵を描こうとしています。母ひとり、子ひとりの家庭で、母親は杉野君の言うことに従い、彼が設計した立派なアトリエ付きの家に住んでいます。
ある日、主人公(語り手)は杉野君の家を訪ねます。杉野君はモデルを使うことに挑戦していると言い、庭の桜の木の下でルノワールの「リイズ」のような絵を描こうとしています。しかし、母親が連れてきたモデルはあまりにも健康的すぎて、絵のイメージに合わず、杉野君はがっかりします。
結局、モデルをうまく描けなかった杉野君は不機嫌になり、景色を描くために旅行に出かけます。一方、母親はそのモデルの女性を家事手伝いとして雇うことにします。彼女は漁師の娘であり、モデルとしての仕事を探して東京に来たばかりでした。母親は彼女の境遇を憐れみ、家で手伝わせることにしたのです。
作品は、芸術家としての葛藤や家族の絆、人間の優しさを描いています。
作品の時代背景
この作品は、昭和初期の日本を舞台にしています。昭和初期(1926年~1945年)は、近代化と伝統の狭間で揺れ動く時代でした。この時代背景には以下の特徴があります。
- 文化と芸術の発展:
- 昭和初期は大正デモクラシーの影響を受け、多くの文化・芸術が発展した時期です。洋画や西洋音楽、文学などが盛んになり、多くの芸術家が活動していました。
- 杉野君のような若い芸術家が、新しい表現を求めて試行錯誤する姿が描かれています。
2.都市化と近代化:
- 東京の都市化が進み、多くの人々が地方から東京に移住し、新しい生活を始めました。杉野君と母親も北海道から東京に移住し、新しい生活を始めています。
- 井の頭公園や武蔵野町といった東京近郊の地名も登場し、都市化の一端が見られます。
3.家族構造の変化:
- 杉野君は母親と二人暮らしであり、家族の絆が強調されています。昭和初期には、伝統的な家族構造がまだ残っていましたが、都市化と共に家族の形態も多様化し始めていました。
4.経済状況:
- 昭和初期は世界恐慌の影響もあり、不況が続いていました。そのため、芸術家たちも経済的に厳しい状況に置かれることが多かったです。杉野君が絵を売ることができず、苦労している様子もこの背景を反映しています。
このような時代背景の中で、杉野君が理想の絵を追求し、母親との生活を送る姿が描かれています。
太宰治について
太宰治(だざい おさむ)は、日本の昭和時代を代表する作家で、本名は津島修治(つしま しゅうじ)です。1909年6月19日に青森県で生まれ、1948年6月13日に亡くなりました。太宰治はその独特の文体とテーマで多くの読者を魅了し、日本文学に大きな影響を与えました。
太宰治の生涯と作品の特徴:
- 家庭環境と教育:
- 太宰は地主の家に生まれ、裕福な家庭で育ちました。しかし、母親が病弱であったことや父親が忙しかったことから、幼少期には孤独感を抱いていました。
- 東京大学仏文科に入学するも、中退し、作家としての道を歩み始めました。
2.文学活動の開始:
- 1930年代に文壇に登場し、作品を発表し始めました。特に『晩年』(1936年)や『人間失格』(1948年)などは、彼の代表作として知られています。
- 太宰の作品は、自己の内面の葛藤や人間の弱さ、孤独感をテーマにしたものが多く、読者の共感を呼びました。
3.独特の文体:
- 太宰治の文体は、親しみやすく、時にユーモラスでありながらも、鋭い洞察力と詩的な表現が特徴です。彼の作品は、しばしば自伝的要素を含み、読者に強い印象を与えます。
4.私生活の困難:
- 太宰は、生涯を通じて多くの困難に直面しました。特に薬物依存や自殺未遂など、精神的な苦悩が彼の作品にも反映されています。
「リイズ」と太宰治:
この作品「リイズ」は、太宰治の他の作品同様、登場人物の内面の葛藤や日常の些細な出来事を通じて、人間の本質に迫ろうとするものです。
- 主人公と芸術家の描写:杉野君という若い画家の姿は、太宰自身の内面の葛藤や理想と現実の狭間で苦しむ様子を反映しているとも考えられます。杉野君が「いい画を描きたい」という強い願望を持ちながらも、現実にはうまくいかない姿は、太宰自身の創作活動への苦悩を象徴しているように見えます。
- 母親との関係:杉野君とその母親の関係は、太宰自身の家族関係を思わせます。太宰もまた、家族との複雑な関係に悩み、それが彼の作品に反映されることが多々あります。
- 人間の弱さと優しさ:太宰の作品には、人間の弱さや欠点を見つめる一方で、それに対する優しさや共感が込められています。この作品でも、モデルとして連れてこられた女性が結局は家事手伝いとして雇われる結末に、人間に対する優しさが感じられます。
太宰治は、その独自の視点と文体で、人間の本質を描き続け、多くの人々に深い感銘を与え続けています。「リイズ」もその一例として、彼の文学の魅力を伝えています。
あおなみの一言感想
芸術家の理想と現実の葛藤の描写に思わず引き込まれますね。
本当に作家さんの文章の力って凄い…!!
杉野君の真摯な姿勢と母親の愛情、モデルとのやり取りが微笑ましく、太宰治の人間観察の鋭さが光る作品でした。
コメント