国境で出会った敵国の兵士たち。彼らを結びつけたのは、一株の野ばらと将棋の時間。
しかし突然の戦争で、彼らは敵味方になってしまう——。
小川未明の『野ばら』は、シンプルな筆致で戦争の不条理と平和の尊さを描いた名作です。
「私の敵は他にある」という青年兵士の言葉に、国境を超えた友情と人間の良心が表れています。
平和の象徴「野ばら」が伝える深いメッセージを、あらすじや考察と共に紐解いていきましょう。
\耳から作品を楽しみたい方は、全編を以下YouTubeで朗読しております/
- 『野ばら』の物語概要とあらすじ
- 『野ばら』のメッセージや考察
- 『小川未明』について
『野ばら』のあらすじと登場人物について

あらすじ
※ネタバレを避けたい方はスキップしましょう!
『野ばら』は、隣り合う大きな国と小さな国の国境を守る二人の兵士の物語です。
大きな国からは老人の兵士が、小さな国からは青年の兵士が派遣され、人里離れた寂しい山の国境の石碑を守っていました。
最初は敵か味方かという意識から言葉を交わさなかった二人ですが、他に話し相手もなく退屈な日々の中、次第に打ち解けていきます。
国境には誰が植えたとも知れない一株の野ばらが茂り、毎朝ミツバチが集まってくる平和な風景の中で二人は親しくなります。
二人は将棋を楽しむようになり、最初は老人が強かったものの、青年も上達していきます。
老人と青年は共に正直で親切な人物で、将棋では競い合っても心は通じ合っていました。
冬になると老人は南方にいる息子や孫のことを恋しく思い、早く休暇を取って帰りたいと言います。
青年は老人に、自分がいなくなれば知らない人が代わりに来るかもしれないから、もう少しいてほしいと頼みます。
やがて春になったころ、二つの国は利益問題から戦争を始めます。
毎日仲良く暮らしていた二人は、突然敵味方の関係になってしまいます。
老人は青年に自分を殺して出世するよう勧めますが、青年はそれを拒否し、「私の敵は他にある」と言って戦場へ向かいます。
国境には老人一人が残され、彼は茫然と日々を過ごしながら青年の身を案じていました。
ある日、旅人から小さな国が負けて兵士はみな殺されたという知らせを聞き、老人は青年も死んだのではないかと思います。
老人が悲しみに暮れながら居眠りをすると、夢の中で青年が軍隊を率いて現れ、老人の前を通るときに黙礼してばらの花をかいだのでした。
それは夢であり、目が覚めた後、野ばらは枯れてしまいます。
秋になり、老人は南方へ休暇をもらって帰郷するのでした。
主な登場人物
- 老人の兵士
大きな国から派遣された国境警備の兵士。少佐の階級を持つ。
正直で親切な性格の持ち主で、青年兵士に将棋を教え、親しく交流する。
南方に息子や孫がおり、彼らに会いたいと思っている。戦争が始まっても敵味方の区別を超えた友情を大切にする。 - 青年の兵士
小さな国から派遣された国境警備の兵士。老人から将棋を教わり、次第に上達していく。
真面目で誠実な性格で、戦争が始まっても老人を敵とは見なさず、真の敵は別にあると考える強い信念の持ち主。
『野ばら』の重要シーンまとめ

この章では「野ばら」のキーとなるシーンをまとめています。
国境の石碑のそばに咲く一株の野ばらと、そこに集まるミツバチ。
最初は敵か味方かという意識を持っていた二人の兵士が、この美しい自然の中で次第に打ち解けていく場面。
この野ばらは物語全体を通じて平和の象徴となっている。
老人が青年に将棋を教え、二人が対局を楽しむ場面。「将棋盤の上で争っても、心は打ち解けていた」という描写は、国家間の対立を超えた人間同士の友情を象徴している。
二つの国が戦争を始め、二人が敵味方の立場になってしまう場面。
老人が「私の首を取って出世しなさい」と言うのに対し、青年は「私とあなたが敵どうしでしょうか。私の敵は他にある」と答え、戦場へ向かう。この場面は国家間の対立と個人の友情の葛藤を鮮明に描いている。
老人が青年の死を案じて居眠りする中、夢で青年が軍隊を率いて現れ、黙礼してばらの花をかぐ場面。
目覚めると夢だと知り、その後野ばらが枯れていく。戦争によって失われる生命と友情の象徴的な場面。

人間同士の友情と国家間の対立という矛盾の中で、真の平和とは何かを問いかける作品の核心がこれらの重要シーンに表れています。
『野ばら』の考察や気づき


「小川未明」が『野ばら』を通して伝えたかったメッセージを、以下のように考察しました。
- 国境を超えた友情の可能性
敵国の兵士同士が国境で出会い、将棋を通じて友情を育んでいく過程は、国籍や立場を超えた人間同士の絆の可能性を示しています。小川未明は、人と人との純粋な交流が、人為的な国境や対立を乗り越える力を持つことを伝えたかったのでしょう。 - 平和の象徴としての野ばら
作品タイトルにもなっている「野ばら」は、誰が植えたとも知れず国境に咲き、ミツバチを集める美しい存在として描かれています。この野ばらは戦争の終結と共に枯れてしまい、平和の儚さと尊さの象徴となっています。自然の美しさと戦争の醜さの対比を通して、平和の大切さを訴えています。 - 個人の良心と国家の論理の対立
青年が「私の敵は他にある」と言って老人を殺すことを拒む場面は、国家の命令と個人の良心の対立を表しています。未明は、国家の論理に従うだけでなく、一人一人が自分の良心に従って行動することの重要性を伝えたかったのでしょう。



この作品を通して小川未明は、戦争の愚かさと平和の尊さ、そして国境や国籍を超えた人間同士の友情の可能性について、子どもから大人まで心に響く形で伝えようとしたのでしょう。
小川未明について
小川未明(1882-1961)は、日本の児童文学の父と呼ばれる作家です。
本名は小川健作で、新潟県高田市(現在の上越市)出身。
『野ばら』に見られるように、彼の作品は子どもを対象としながらも、戦争や社会問題といった深刻なテーマを扱っています。
『野ばら』が書かれた時期は明確に記されていませんが、小川未明は日露戦争や第一次世界大戦、そして第二次世界大戦という時代を生きた作家です。
彼自身が体験した戦争の時代背景が、『野ばら』における国境を守る兵士たちの友情と、それを引き裂く戦争の描写に影響を与えていると考えられます。
未明の作品の特徴は、「赤い蝋燭と人魚」や「野ばら」のように、象徴的な表現を用いて社会の矛盾や人間の心理を描く点にあります。
特に『野ばら』では、国境に咲く一株の花という象徴を通して、国家間の対立を超えた友情と平和の尊さを訴えており、これは未明の平和主義的な思想の表れと言えるでしょう。
また、未明は「児童に対する文学は、児童のためにあるのではなく、児童を通して人間に訴えるものでなければならない」という考えを持っていたとされています。
『野ばら』も、一見シンプルな物語でありながら、大人にも深い問いかけをする作品となっています。
『野ばら』のあおなみのひとこと感想



『野ばら』は、シンプルな筆致ながら平和と戦争について深く考えさせる優れた作品です。
国境で出会った二人の兵士の友情が、国家間の対立によって引き裂かれる悲しさが胸に迫ります。
特に、青年が「私の敵は他にある」と言って去っていく場面は、戦争の不条理さを象徴しています。野ばらが枯れていく結末には、平和の儚さが表現されており、読者に強いメッセージを残します。
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