恋人同士が実は兄妹だった――
そんな絶望的な真実に直面した二人を救ったのは、一人の母の壮絶な愛でした。
渡辺温の「或る母の話」は、血のつながりを超えた真の愛とは何かを問いかける衝撃作です。
最後に明かされる母の秘密に、あなたは涙を禁じ得ないでしょう。
運命の皮肉と母性愛の深さが織りなす、珠玉の短編小説の世界へようこそ。
\耳から作品を楽しみたい方は、全編を以下YouTubeで朗読しております/
- 『或る母の話』の物語概要とあらすじ
- 『或る母の話』のメッセージや考察
- 『渡辺温』について
『或る母の話』のあらすじと登場人物について

あらすじ
※ネタバレを避けたい方はスキップしましょう!
母一人娘一人で暮らしていた智子とその母。智子は父親の写真を見ながら育ち、やがて女学校を卒業して会社勤めを始める。ある日、地下の食堂で出会った青年・浅原礼介に、亡き父の面影を重ねる智子。雨の夜、浅原が気遣いを見せたことをきっかけに、二人は恋に落ち、やがて婚約を交わす。
しかし、浅原を母に紹介した夜、衝撃的な事実が判明する。浅原の父親の写真は、智子が父親だと信じていた写真と同一人物だった。恋人同士が兄妹だという絶望的な状況に直面し、二人は深い絶望に陥る。
翌朝、浅原が疑問を抱いて再び訪れると、智子の母は既にガス自殺を遂げていた。残された遺書には驚くべき真実が記されていた。智子は実の娘ではなく、貧しい家庭から引き取った養女だった。母は生涯独身で、松岡(浅原の父)とは許嫁の関係にあったが、彼がアメリカで結婚したため、その夢は破れていた。智子への愛情で寂しさを紛らわせながら生きてきた母は、二人の恋を成就させるため、そして自らの長い孤独に終止符を打つため、静かに命を絶ったのだった。
智子は、二十年間慈愛深い母として自分を育ててくれた「一生いじらしい処女」であった母の死顔の前で、長い涙に暮れることになる。
主な登場人物
- 智子
主人公の美しい娘。母一人娘一人で育ち、女学校卒業後に商事会社で働く。賢く考え深い性格で、浅原と恋に落ちるが、衝撃的な真実に直面する。 - 母
智子を養女として育てた女性。若い頃は美しく、松岡と許嫁だったが、彼がアメリカで結婚したため生涯独身を貫く。智子への深い愛情で寂しさを紛らわせて生きてきた。 - 浅原礼介
智子の恋人。自動車会社の技師で、発動機の新発明で注目される青年。智子の「父親」と同じ人物が実の父親であることが判明し、苦悩する。 - 松岡
浅原の実父で、智子の母の元許嫁。大学卒業後アメリカに渡り、現地で結婚。日本には帰らずに死去した。
『或る母の話』の重要シーンまとめ

この章では「或る母の話」のキーとなるシーンをまとめています。
智子が浅原と初めて出会う場面。同じメニューを注文し、父親の写真に似た面影に智子が驚く。運命的な出会いの始まりを象徴する印象的なシーン。
夕立で帰れずにいる智子を、浅原がタクシーを手配して助ける場面。直接的ではなく間接的な優しさが、二人の関係を深める重要な転換点となる。
浅原を母に紹介した夜、父親の写真が同一人物であることが判明する場面。恋愛から一転して絶望へと転落する劇的な場面で、物語の最大のクライマックス。
ガス自殺した母の遺書を読む場面。智子が養女であること、母の生涯にわたる片恋、そして最後の母性愛による自己犠牲が明かされる感動的な結末。

この作品は、運命の皮肉と母性愛の深さを描いた珠玉の短編です。
『或る母の話』の考察や気づき


「渡辺温」が『或る母の話』を通して伝えたかったメッセージを、以下のように考察しました。
- 母性愛の無償性と自己犠牲
血のつながりのない智子を二十年間実の娘として愛し続けた母の姿は、真の母性愛の象徴といえる。最後に自らの命を犠牲にしてまで智子の幸せを願う行為は、愛の究極の形を表現している。作者は母性愛の深さと無私無欲な性質を讃美している。 - 真実と虚構の境界
母が作り上げた「嘘」の家族関係が、結果的に真の愛情を生み出した皮肉。血縁よりも愛情の方が本質的であることを示し、家族の本当の意味を問いかけている。 - 死による愛の完成
母の死は単なる悲劇ではなく、智子への愛を完成させる行為として描かれている。自己犠牲による愛の昇華という、文学的な美意識が込められている。



作者は人間の複雑な感情と運命の皮肉を通して、愛の本質について深く考察させる作品を創造しました。
渡辺温について
渡辺温(わたなべ・おん、1902-1930)は大正から昭和初期にかけて活躍した小説家です。本名は渡辺温彦。「或る母の話」のような家族愛や人間の情愛を繊細に描いた作品で知られています。
この作品にも表れているように、渡辺温は女性の心理描写に優れ、特に母性愛や恋愛感情の機微を丁寧に描写することを得意としていました。また、運命の皮肉や偶然の残酷さを題材にしながらも、最終的には人間の愛情の美しさを讃える作風が特徴的です。
短い生涯でしたが、人間の内面を深く見つめた心理小説の佳作を多く残し、日本近代文学史において独特の位置を占めています。「或る母の話」は彼の代表作の一つとして、現代でも多くの読者に愛され続けています。
『或る母の話』のあおなみのひとこと感想



母性愛の深さと無償の愛に心を揺さぶられる作品でした。運命の皮肉な巡り合わせに絶望しながらも、最後に明かされる真実が感動的で、血のつながりを超えた本当の愛情について考えさせられます。母の自己犠牲的な愛が胸を打ち、涙なしには読めない名作です。
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