【朗読】貨幣/太宰治~あらすじ、重要シーン、考察まとめ~

お金はただの紙切れでしょうか?

それとも、私たちの欲望や社会の縮図を映し出す鏡でしょうか。

太宰治の短編『貨幣』は、一枚の百円紙幣が語り手となり、自身の流通過程を通じて、人間の本質や戦争の悲惨さを描き出す異色の物語です。

紙幣が転々とする中で見えてくる、人間の欲望と無常。

戦時中の社会の荒廃と、それでもなお残る人間性への希望。

この記事では、そんな『貨幣』の魅力と、太宰治が伝えたかったメッセージを紐解いていきます。

\耳から作品を楽しみたい方は、全編を以下YouTubeで朗読しております/

この記事を読んでわかること
  • 『貨幣』の物語概要とあらすじ
  • 『貨幣』のメッセージや考察
  • 『太宰治』について
目次

『貨幣』のあらすじと登場人物について

あらすじ

※ネタバレを避けたい方はスキップしましょう!

物語は、一枚の百円紙幣が語り手となり、自分の人生(流通過程)を語る形式で進みます。

百円紙幣が大工の若者の手に渡るところから始まります。大工はその紙幣を大切にし、家の神棚にまで飾りますが、翌日には紙幣は質屋に行くために使われてしまいます。その後、紙幣は医学生に手渡され、その学生が瀬戸内海で命を絶ったことで、再び別の場所へと渡ります。紙幣は各地を転々とし、様々な人々の手を渡り歩くうちに、次第に価値や扱いが軽んじられるようになります。

戦時中、紙幣は闇市で取引されるようになり、闇屋の手で多くの人々に渡ります。その中で、紙幣は一度だけ幸せを感じたと語ります。それは、戦火の中で酔いどれの軍人が、紙幣を痩せた赤ん坊の背中に入れて去っていく場面です。この時、紙幣は自分が赤ん坊のために役立つことができたと感じ、幸せだったと述べています。

この作品は、貨幣という無機物を通して、人間の欲望や戦争の悲惨さを描くとともに、人間らしい感情や行動を示す瞬間に焦点を当てています。

主な登場人物

  • 百円紙幣
    物語の語り手であり、中心的な存在。様々な人々の手を渡り歩く中で、自分の流通過程を振り返りながら語る。
  • 若い大工
    最初に百円紙幣を手にする人物。紙幣を神棚に飾るほど大切にするが、最終的には紙幣を質屋に持ち込む。
  • 医学生
    質屋から百円紙幣を受け取る人物。瀬戸内海の小さな島で自殺してしまう。
  • 闇屋の婆さん
    百円紙幣をビールと引き換えに手に入れ、葡萄酒を買うために使う闇屋の女性。
  • 葡萄酒の闇屋
    百円紙幣を闇取引で受け取る人物。陸軍大尉と取引を行う。
  • 陸軍大尉
    闇取引で葡萄酒を手に入れ、百円紙幣を受け取る。酔っ払って紙幣を持ちながら小料理屋に向かう。

『貨幣』の重要シーンまとめ

この章では「貨幣」のキーとなるシーンをまとめています。

場面
紙幣が最初に大工の手に渡るシーン

この場面で、紙幣は大工に大切にされ、神棚に飾られるほどの重要性を持っています。紙幣の価値が尊重され、紙幣自身も幸福を感じる瞬間です。

場面
紙幣が質屋に入れられるシーン

大工の妻によって紙幣が質屋に持ち込まれる場面は、紙幣が生活の必要によって使われる現実を示しています。ここで、紙幣の運命が大工の手から離れ、様々な人々の手に渡っていくことになります。

場面
医学生が紙幣を手にし、最終的に自殺するシーン

屋から受け取った医学生が、自身の命を絶つまでの流れが描かれます。紙幣が不幸な状況にある人々の手に渡り、その運命を見届ける立場にあることが強調されます。

場面
戦時中、紙幣が闇市場で取引されるシーン

紙幣が闇屋に渡り、次々と手を渡り歩く中で、戦争中の混乱や人々の欲望が描かれます。ここで、紙幣は使い古され、価値が軽んじられるようになります。

場面
空襲のシーンと紙幣が赤ん坊の背中に入れられるシーン

酔った陸軍大尉が空襲の混乱の中で、お酌の女性の赤ん坊の背中に紙幣を入れて去るという場面です。紙幣が初めて、人間の命や愛情に直接役立つことができたと感じ、幸福を覚えます。

おしまい
あおなみ

まさかの紙幣からの視点で物語を書くなんて…!!
その発想に脱帽ですよね。

『紙幣』の考察や得た教訓

「太宰治」が『貨幣』を通して伝えたかったメッセージを、以下のように考察しました。

  • 人間の欲望とその無常性
    作品全体を通して、百円紙幣は様々な人々の手を渡り歩き、その過程で人間の欲望や欲望の対象としての金銭が描かれます。

    紙幣が大切にされる場面もあれば、軽んじられ、汚される場面もあります。
    これを通じて、太宰は人間の欲望が持つ無常性や、物質的な欲望がいかに人々を支配し、時に堕落させるかを描いているのではないでしょうか。
  • 戦争と社会の荒廃
    紙幣が闇市場で取引され、戦時中の混乱の中で様々な人物に渡り歩く過程は、戦争がもたらす社会の荒廃や人々の価値観の崩壊を象徴しています。

    戦時中の社会では、欲望や混乱が極限に達し、人間性が失われていく様子が強調されています。

    太宰は、戦争が人々をどのように変え、社会をどのように破壊するかを、紙幣の視点から描いてます。
  • 人間の尊厳と本当の価値
    物語のクライマックスである、赤ん坊の背中に紙幣が隠されるシーンでは、紙幣が初めて人間の命や尊厳に寄与する役割を果たします。

    この場面を通して、太宰は物質的な価値よりも人間そのものの尊厳や命の方がはるかに大切であることを示唆しているように見えます。
あおなみ

人間社会の問題点、戦争や欲望の持つ破壊力
それに対する人間の脆弱さを描き出し、
それでもなお残る人間性の尊厳や希望を示そうとしたのではないかと考えます。
う~ん、ものすごいテーマだ…!!

太宰治について

太宰治は、日本の近代文学を代表する作家の一人で、繊細な感性と深い自己洞察を持ちながら、多くの作品を残しました。

彼の作品には、自身の内面の葛藤や社会への鋭い批判が反映されており、「貨幣」もその一つです。

太宰治、本名津島修治(1909年 – 1948年)は、青森県の裕福な家に生まれました。
幼少期から文学に興味を持ち、東京帝国大学で学ぶも、文学への没頭と薬物依存、女性問題などで学業はうまくいきませんでした。

彼の生涯は、自殺未遂や恋愛問題、薬物依存などの苦悩に満ちており、それが作品にも色濃く反映されています。

1948年に愛人と共に玉川上水で入水自殺を遂げました。

太宰の作品には、自己否定や絶望感、疎外感が繰り返し登場します。

彼は、人間の弱さや堕落を深く掘り下げると同時に、そこに一抹の救いを見出そうとする作風を持っていました。
彼の代表作「人間失格」では、自己嫌悪と自己破壊の道をたどる主人公を通じて、人間の本質を探求しています。

「貨幣」を通じて、太宰治は自らの経験や感情を投影し、人間の本質や社会の矛盾を鋭く描いています。

彼は、自己の内面に向き合いながらも、常に社会の不条理や人間の本性に目を向け、それを文学として昇華させることで、自らの存在意義を問い続けた作家です。

「貨幣」は、そのような太宰治の文学世界を理解するための重要な作品の一つと言えるでしょう。

『貨幣』のひとこと感想

あおなみ

「貨幣」は、百円紙幣の視点を通じて、人間の欲望や社会の荒廃を描き出す、太宰治らしい鋭い社会批判と深い人間洞察が光る作品でしたね。

戦争や混乱の中で汚され、軽んじられる紙幣が、最後に赤ん坊を救う役割を果たす場面は、温かな気持ちを得られました。


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