こんにちわ!
今回の作品は新美南吉の『うた時計』です。
心の純粋さと人のつながりが奏でる温かい物語です♪
耳から楽しみたい方は、以下YouTubeからどうぞ^^
あらすじ
ある暖かな二月の日、野中のさびしい道を歩いていた十二、三歳の少年と、皮のかばんを抱えた三十四、五歳の男の人がいました。風もなく、霜も溶けて道はぬれています。
ふたりが歩くと、からすが驚いて飛び立ち、黒い背中が光を反射しました。
男の人が「坊、ひとりでどこへ行くんだ?」と話しかけると、少年は人懐こい笑顔で「町だよ」と答えました。この少年はれんという名前で、素直で親しみやすい性格です。
ふたりは少しずつ話を進め、「れん」という名前の字の書き方や、清廉潔白という言葉についても話しました。
やがて少年は、男の人のオーバーのポケットに手を入れてみたいと言い、男の人も許可します。
その時、ポケットから美しい音楽が流れ出しました。男の人は驚いてポケットを押さえますが、音楽は止まりません。少年は「これは時計だろう」と言い当て、ふたりは音楽を楽しみながら歩き続けました。
少年は、この音楽が好きで、かつて妹のアキコが亡くなる前に、この音楽を聞かせてあげた話をしました。
アキコの墓に行き、うた時計を鳴らしてあげたという思い出話もしました。
しばらくして、ふたりは別れ道に差し掛かり、お別れを言います。
しかし、男の人は突然少年を呼び戻し、自分が薬屋の家からうた時計と懐中時計を間違えて持ち出してしまったことを告白します。
少年はその時計を薬屋に返すことを約束し、男の人と別れました。
その後、少年は薬屋のおじさんに会い、時計を返します。
おじさんは、男の人が自分の息子・周作であり、悪いことばかりしてきたが、今度こそ改心して町の工場で働くと言っていたことを話しました。
少年は、男の人が清廉潔白であることの大切さを話していたことを伝えます。
老人は涙を浮かべながら時計を受け取り、ふたりは美しい音楽を聞き入りました。
そして、少年は遠くの稲積の方を眺めながら、男の人の姿を思い浮かべていました。
広い野原には、白い雲がひとつ浮かんでいました。
作品の時代背景
新美南吉の「うた時計」は、1930年代から1940年代の日本の農村を舞台にした作品です。
この時代背景についていくつかのポイントを挙げてみます。
- 昭和初期の農村:
この時期、日本はまだ農業が主要産業で、多くの人々が農村で生活していました。都市化が進む前の時代で、地域社会のつながりや助け合いが重要な役割を果たしていました。 - 戦前の教育と社会環境:
学校教育が広まっており、子供たちは基本的な教育を受けていました。しかし、都市と比べると農村の教育環境はまだ発展途上で、教師との距離感も近かったことが描かれています。 - 戦時下の影響:
この時代は、第二次世界大戦前後の時期にあたります。戦争による社会の混乱や影響があり、家族や地域の生活に大きな影響を与えていました。作品中の周作が不良少年になり家を出て行ったという背景には、戦争や社会の混乱が影響している可能性があります。 - 伝統的な価値観:
「清廉潔白」などの言葉が登場するように、正直さや純粋さといった伝統的な価値観が重視されていました。このような価値観は、当時の日本の農村社会で特に大切にされていたものです。 - 技術の進展:
オルゴールや懐中時計といった小道具が登場することから、少しずつ西洋の技術や文化が取り入れられていたことがわかります。この時代には、西洋文化や技術が日本に浸透し始めていました。
こうした時代背景の中で、物語は純朴で心温まるエピソードを通じて、人々のつながりや信頼、改心の重要性を描いています。
新美南吉について
新美南吉(にいみなんきち)は、1913年に愛知県で生まれた日本の童話作家です。
彼の作品は、自然や人々の心の温かさ、そして日本の美しい風景を繊細に描くことで知られています。
南吉はその短い生涯の中で、多くの名作を残しましたが、その中でも「ごんぎつね」や「手袋を買いに」は特に有名です。
「うた時計」もその一つで、彼の作品には共通して見られるテーマである、人間の純粋さと心の触れ合いが描かれています。
この作品では、少年のれんと皮のかばんを持った男の人との偶然の出会いを通して、心の清廉さや人とのつながりの大切さが語られます。
南吉の生まれ育った愛知県半田市の風景や、彼自身の幼少期の体験が作品に色濃く反映されています。
例えば、「うた時計」で描かれるような農村の静けさや自然の美しさ、そして人々の温かい交流は、彼が子供の頃に見聞きし、感じていたものでしょう。
また、南吉は教師としても働いており、その経験が子供たちの描写にリアリティを与えています。
彼は子供たちとの触れ合いを通じて、純粋で無邪気な心の大切さを強く感じていたのかもしれません。
この作品で、れんが清廉潔白であることの大切さを学び、他者への信頼を忘れない姿は、まさに南吉の理想とする子供像です。
南吉は、病気のために29歳という若さで亡くなりましたが、彼の残した作品は今でも多くの人々に愛され続けています。
その作品には、時代を超えて共感できる普遍的なテーマがあり、現代の私たちにも深い感動を与えてくれます。
「うた時計」のような物語を通じて、南吉の心の温かさや人間への深い愛情を感じていただければと思います。
あおなみのひとこと感想
新美南吉さんの作品は温かいですよね。
少年のれんの素直さや、過ちを犯しつつも改心しようとする男の人の姿が印象的でした♪
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