【朗読】寐顔/永井荷風~あらすじ、重要シーンまとめ~

17歳の竜子が偶然耳にした母への噂話。その夜、生まれて初めて見詰めた母の寝顔に秘められた真実とは?

永井荷風が描く思春期の少女の心の揺れ動きと、母娘の複雑な愛情を繊細な筆致で綴った名作「寐顔」。

電車での衝撃的な盗み聞きから始まる、大人の世界への扉が静かに開かれる瞬間を、美しい日本語で表現した文学の傑作をご紹介します。

\耳から作品を楽しみたい方は、全編を以下YouTubeで朗読しております/

この記事を読んでわかること
  • 『寐顔』の物語概要とあらすじ
  • 『寐顔』のメッセージや考察
  • 『永井荷風』について
目次

『寐顔』のあらすじと登場人物について

あらすじ

※ネタバレを避けたい方はスキップしましょう!

竜子は6歳で父を亡くし、小石川茗荷谷で母の京子と二人きりで暮らしている17歳の少女です。母は娘より18歳年上ですが、小柄で若々しく、まるで姉妹のように見間違えられることもしばしば。二人は同じ部屋で寝起きし、琴や三味線、生花、茶の湯の稽古も一緒に行う、まさに密着した関係を築いてきました。

13歳頃から竜子は、母が自分のために犠牲になって一人でこの家に留まっているのではないかと考えるようになり、家の中に底知れぬ寂しさを感じるようになります。家には古くからの出入りの商人や職人たちがいましたが、皆年老いた男性ばかりでした。

そんな中、長年の主治医である桑島先生が亡くなり、代わりに30代半ばの若い岸山先生が診察に来るようになります。竜子は最初、この医者も他の出入りの人たちと同様に桑島先生の推薦で来たのだろうと思っていました。岸山先生の診察は簡潔で愛想もありませんでしたが、竜子はそれを学者らしいと好意的に受け止めました。

その後、竜子と母は劇場で岸山先生と偶然出会い、一緒に紅茶を飲んだりするようになります。鎌倉での避暑中にも先生が訪れ、三人で海水浴を楽しむなど、次第に親密になっていきます。翌年も竜子は先生の来訪を期待しましたが、母は曖昧な反応を示すだけでした。

17歳の春、竜子は電車の中で偶然、二人の男性が岸山医学士と母の京子について噂話をしているのを耳にしてしまいます。その内容から母と岸山先生の関係を察した竜子は動揺し、急いで電車を降りて家まで歩いて帰ります。

その夜、竜子は生まれて初めて夜中に母の寝顔をじっと見詰めます。美しく安らかに眠る母の寝顔を見ながら、岸山先生との関係については考えまいと決意し、もし事実だとしても母の寂しい人生に色彩を加えた美しい詩として受け止めようと心に決めるのでした。

主な登場人物

  • 竜子(りゅうこ)
    17歳の主人公。6歳で父を亡くし、母と二人きりで暮らしている。母との密接な関係の中で育ちながらも、次第に大人の複雑な感情に目覚めていく思春期の少女。
  • 京子(きょうこ)
    竜子の母。娘より18歳年上だが小柄で若々しく、娘と姉妹のように見える。亡き夫の家で娘と静かに暮らしているが、若い医師との関係が噂される。
  • 岸山先生
    30代半ばの若い内科医。前任の桑島先生の後任として母娘の主治医となる。簡潔な診察ぶりと無愛想な態度だが、劇場などで偶然出会うようになり、次第に母子と親しくなる。
  • 桑島先生
    長年母子の主治医を務めていた老医師。念入りな診察で知られていたが、竜子が高等女学校に進む頃に亡くなった。

『寐顔』の重要シーンまとめ

この章では「寐顔」のキーとなるシーンをまとめています。

場面
電車での盗み聞き

竜子が学校からの帰り道、電車の中で二人の男性が岸山医学士と母の京子について噂話をしているのを耳にしてしまう場面。竜子は顔が火のように熱くなり、胸の動悸が激しくなって急いで電車を降りる。この瞬間、竜子は母の秘密を知ってしまい、少女から大人への転換点を迎える。

場面
深夜の母の寝顔観察

その夜、竜子は生まれて初めて夜中に母の寝顔をじっと見詰める。美しく安らかに眠る母を「綺麗な鳥が綺麗な翼に嘴を埋めて、静かに夜の明けるのを待っている」ように感じ、母との関係について深く思いを巡らせる。この場面は作品のクライマックスであり、竜子の精神的成長を象徴している。

場面
鎌倉での三人の海水浴

竜子が15歳の時、鎌倉で母と岸山先生と三人で海水浴を楽しんだ場面。この時はまだ竜子にとって先生は単なる知り合いの医師でしかなく、母との関係に気づいていない無邪気な時期を表している。後に重要な意味を持つ思い出として描かれている。

おしまい
あおなみ

これらのシーンは竜子の心の成長過程を丁寧に描き出しており、少女が大人の世界の複雑さに直面する瞬間の心理描写が秀逸です。

『寐顔』の考察や気づき

「永井荷風」が『寐顔』を通して伝えたかったメッセージを、以下のように考察しました。

  • 思春期の心理描写
    竜子が母の秘密を知った時の複雑な心境を通して、思春期特有の心の動きを繊細に描写しています。大人の世界への憧れと嫌悪、母への愛情と反発、そして自分自身の性的な目覚めなど、多層的な感情が絡み合った思春期の心理を巧みに表現しています。
  • 日本的な美意識
    母の寝顔を「綺麗な鳥」に例えるなど、日本的な美意識に基づいた情緒的な表現が随所に見られます。西洋的な個人主義ではなく、東洋的な調和と諦観の美学を背景に、人間関係の機微を描いているのが特徴的です。
  • 社会の噂と個人の尊厳
    電車での盗み聞きのエピソードは、社会の噂や世間体が個人の生活にどのような影響を与えるかを示しています。しかし竜子が最終的に母を擁護する決意を固める様子からは、個人の尊厳と愛情の重要性を訴える作者の意図が感じられます。
あおなみ

荷風は道徳的な説教を避けながら、人間の複雑な心理と関係性を美的に描き出すことで、読者により深い感動と共感を呼び起こしています。

永井荷風について

永井荷風(1879-1959)は、明治末期から昭和にかけて活躍した日本の小説家・随筆家です。「寐顔」に見られるような繊細な心理描写と情緒的な文体は、荷風文学の大きな特徴の一つです。

荷風は西洋文学の影響を受けながらも、日本古来の美意識を大切にし、特に江戸情緒や日本女性の美しさを追求し続けました。「寐顔」で描かれる京子の美しさや竜子の心の動きも、荷風が理想とする日本女性像の現れと言えるでしょう。

また、荷風は社会の道徳や常識に対して批判的な視点を持っており、「寐顔」でも世間の噂に惑わされない個人の尊厳の重要性を静かに主張しています。母と医師の関係についても、道徳的な判断を避けて人間的な理解を示す竜子の姿勢に、荷風自身の人生観が反映されているのです。

『寐顔』のあおなみのひとこと感想

あおなみ

母と娘の微妙な関係性を丁寧に描いた心理小説の傑作です。特に17歳の竜子が母の秘密を知った時の複雑な心境の描写が素晴らしく、思春期特有の心の動きが手に取るように伝わってきます。現代にも通じる普遍的なテーマを美しい文章で表現した荷風の筆力に感動しました。


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