孤児院から引き取られた少女チエ子が、空や壁の割れ目に「人の顔」を見つける奇妙な能力を持っていたら…?
夢野久作の名作「人の顔」は、純真無垢な子供の瞳が暴き出す大人たちの隠された秘密を描いた、背筋が凍るような心理サスペンスです。
チエ子が電信柱の星に見つけた「保険会社のおじさま」の正体とは?
母親が恐れる本当の理由とは?幻想と現実が交錯する中で明かされる衝撃の真実に、あなたも息を呑むはずです。
\耳から作品を楽しみたい方は、全編を以下YouTubeで朗読しております/
- 『人の顔』の物語概要とあらすじ
- 『人の顔』のメッセージや考察
- 『夢野久作』について
『人の顔』のあらすじと登場人物について

あらすじ
※ネタバレを避けたい方はスキップしましょう!
「人の顔」は、孤児院から麹町番町の船の機関長の家庭に引き取られた少女チエ子を主人公とした、幻想的で心理的な短編小説です。
チエ子は五歳の春に引き取られてから、徐々に変化していきます。背丈が伸びず、頬の赤みが消えて透き通るような白い肌になり、大きな瞳が印象的な静かな子供に成長しました。彼女には奇妙な癖がありました。空と屋根の境目、木の幹、部屋の隅などを長時間見つめ、そこに人の顔を見出すのです。
ある秋の夜、母親と四谷の活動写真を見た帰り道、チエ子は女学校の屋根の上に父親の顔を見つけたと言います。さらに、家の壁の割れ目や電信柱の星に、様々な人の顔を見ると母親に告白します。特に電信柱の星について「保険会社のおじさまの顔」と言った時、母親は動揺し、チエ子を置いて逃げ出してしまいます。
それ以降、母親はチエ子を避けるようになり、別々に寝るようになります。チエ子は夜中に目を覚まし、暗闇の中で様々な人の顔を見つけ、最終的にそれらが父親の顔になって微笑みかける幻想を見るようになります。母親は睡眠薬を与えてチエ子を眠らせようとし、薬の量は徐々に増えていきます。
翌年二月、長い航海から父親が帰国します。やせ細ったチエ子を見て驚きますが、母親の説明で納得します。その夜、父親はチエ子を活動写真に連れて行きます。帰り道、再び同じ場所でチエ子は空に母親の顔を見つけ、さらにその顔と「キス」をしている男性の顔も見えると父親に告白します。チエ子は無邪気に、その男性が毎晩家に来て母親と一緒に寝ていることを明かし、物語は緊迫した場面で終わります。
主な登場人物
- チエ子
孤児院から引き取られた少女。大きな瞳と白い肌が特徴的で、様々な場所に人の顔を見出す不思議な能力を持つ。純真無垢でありながら、大人の世界の秘密を無意識のうちに見抜いてしまう。 - 母親
チエ子の養母。美しく背が高い女性で、夫の留守中に不倫関係にある。チエ子の超自然的な能力を恐れ、次第に彼女を避けるようになる。 - 父親
船の機関長として外国航路に従事している男性。豪快で酒好きの性格。長期間の航海で家を空けることが多く、妻の不倫には気づいていない。 - 保険会社の男性
母親の不倫相手。チエ子の口を通じてのみその存在が明かされる謎めいた人物。
『人の顔』の重要シーンまとめ

この章では「人の顔」のキーとなるシーンをまとめています。
チエ子が電信柱の星の配置に「保険会社のおじさま」の顔を見つけ、母親に告白する場面。母親が動揺し、チエ子を置いて逃げ出す転換点となる重要なシーン。
母親がチエ子に睡眠薬を与え始める場面。チエ子の幻視能力を封じ込めようとする母親の必死さと、徐々に弱っていくチエ子の姿が対照的に描かれる。
活動写真の帰り道、チエ子が父親に母親の不倫を無邪気に告白する場面。物語のクライマックスであり、家族の秘密が暴露される決定的瞬間。

チエ子の純真さと大人の世界の複雑さが交錯する、心理的緊張感に満ちた作品です。
『人の顔』の考察や気づき


「夢野久作」が『人の顔』を通して伝えたかったメッセージを、以下のように考察しました。
- 子供の純真さと大人の罪悪感
チエ子の無垢な瞳は、大人たちの隠された真実を見抜く。作者は子供の純粋さを通して、大人の世界の偽善や欺瞞を浮き彫りにしている。チエ子が見る「人の顔」は、単なる幻覚ではなく、大人たちの内面の真実を映し出す鏡のような存在として描かれている。 - 幻想と現実の境界
チエ子の幻視能力は、現実と非現実の境界を曖昧にする。彼女が見る「顔」は幻想なのか、それとも超自然的な能力なのか。作者は読者にその判断を委ね、現実の不確実性を表現している。この曖昧さこそが、人間の認識の限界を示している。 - 社会の偽善と真実の暴露
チエ子の告白は、社会の表面的な秩序を破綻させる。作者は、真実を語ることの破壊力と、偽善的な社会秩序の脆さを同時に描いている。純真な子供の言葉が持つ力は、時として大人の世界を根底から揺るがす。これは社会批判の一面でもある。



これらの要素が複合的に絡み合い、読者に深い印象を与える作品となっています。
夢野久作について
夢野久作(1889-1936)は、本名を杉山泰道といい、福岡県出身の小説家・詩人です。「人の顔」は彼の代表作の一つで、幻想的で心理的な描写を得意とした作家の特徴がよく表れています。
夢野久作は「ドグラ・マグラ」で知られる奇才で、探偵小説や幻想小説の分野で独特の作風を確立しました。「人の顔」においても、彼の得意とする心理描写と幻想的な要素が巧みに組み合わされています。チエ子の幻視能力という超自然的な設定を通して、人間の内面の複雑さや社会の矛盾を鋭く描き出す手法は、まさに夢野久作らしい作品と言えるでしょう。
作者自身も複雑な人生を歩んだ人物で、その経験が作品の深みにつながっています。「人の顔」でも、表面的な家族の幸福の裏に隠された真実を描くことで、人間関係の複雑さと社会の偽善を鋭く突いています。
『人の顔』のあおなみのひとこと感想



チエ子の純真無垢な視点から語られる大人の世界の暗部が、読者の心に深く刺さる作品です。幻想と現実の境界が曖昧になる中で、子供の持つ真実を見抜く力の恐ろしさと美しさが同時に描かれています。母親の心の変化や父親の反応など、人間の心理の複雑さが巧みに表現された名作だと思います。
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